第17回デジコンサロン
特別講演/最新ハリウッド事情とデジタル・コンテンツ


1997年10月31日 第17回「デジコン・サロン」

「特別講演/最新ハリウッド事情とデジタル・コンテンツ」

■講師

マイケル・バックス氏

アメリカ映画協会(American Film Imstitute)デジタルメディア研究所所長
 バックス氏は映画とマルチメディアの分野で活躍しハリウッドとシリコンバレーの
融合に貢献しています。

今回は「デジタル・コンバージェンス97」の講演のために来日されたマイケル・バックスさんに特別にお見えいただき、映像効果監督をつとめられた映画『ピースメーカー』でのエピソードを中心にお話いただきました。この映画は日本ではお正月に公開予定で、スピルバーグ主催の映画スタジオ「ドリームワークス社」の第1回作品という話題作です。

■『ピースメーカー』で手がけた代表的なビジュアル・エフェクト(映像効果)

当初は45ショットの予定であったビジュアル・エフェクトが、最終的には150ショットとなり、予算の180万ドルが実際には600万ドルかかっています。これは撮影中に次から次へと変更追加がなされた結果です。撮影が東欧で5カ月にもおよび、当然さまざまな困難のある作業でしたが、観客がSFXということを意識しないで見ることができれば大成功です。そういった意味で、この映画の出来には大変満足しています。

・最も複雑なものは、水爆が爆発するシーンです。(コテージで寝ていた二人が、窓から光が差し込むので探りにいくと爆発が起き、廻りの木々と一緒に吹き飛ぶ設定)この場面は完全にCGで表現したのですが、「よりリアルに!」というスピルバーグの意気込みがあり、核実験の映像を参考にUNIXのパーティクル・システムのソフトによってシュミレーションが実現しました。どのように制作したかというと、コテージから半マイルほど離れた丘の地点で、地平線より上のものを全て画像処理で消し、その上に爆発の映像を置き、また一方ではデジタル処理で木が飛ばされる映像を作り、爆発が人間のところまで来た時点でタイミングよく木々や人間をデジタルモデルと置き換えるという合成方法により、爆発のすさまじい臨場感を再現しています。

・もう一つ難しかったショットは、橋の上からトラックがガードレールを突き抜け滝のある川に落ちるシーンです。ここでは撮影予定の滝が浅すぎたために、デジタル処理で滝を挿入することになりました。監督から複雑な動きが要求されたため、テニスボールを川に浮かべてカメラワークの遠近感の実験を行なったり、*テクスチャ・マップ用の参考写真を数多く撮ってCG部分を作成し、風景の実写と交互に織り交ぜて使うなどの工夫によりフォトリアリズムを追求しています。つまり、100フィート分が実際の風景であり、200フィート分はCGで、さらに100フィート分は実際に撮影したものを使うということです。この川には猛毒なヘビが生息しており、スタッフが近寄りたがらないため、実験や写真撮影は私自ら率先したまさに命懸けの現場でした。

<註:*テクスチャ・マッピングとは、ポリゴンに絵を張り付けることで見かけ上のディテールを複雑にする技術>

・あるシーンでは、ヘリコプター2台の予定が、急遽3台という変更が加えられ「デジタルで3つめのヘリコプターを制作する」という信じられないほど大変な作業を行うはめになりました。スキャンニングした画像をいろいろと動かすことによって、実際の映画では「2つしかヘリコプターがなかった」とは気が付かないほど優れた処理ができたと思っています。

・ニューヨークの撮影で「ニセの核爆弾」の設置を許可してくれる教会がなかったため、小さな礼拝堂を作り、デジタル処理によって巨大な教会を画面に構築しました。効果として面白いのは、本当の3Dではなく2.5次元のモデルを構築したことです。

ドリームワークス第一回作品「ピースメーカー」は日本では

1998年1月15日からUIP映画配給で一般公開されます。

■メイキング『ピースメーカー』裏話

・仕事を依頼された際のことですが、プロダクション・デザイナーのレスリー・ディレイからは「スピルバーグが君を指名している!」と聞かされていたところ、本当は「バックスの”ような”男を見つけてこい」とメモされていただけ…というのが面白い真相でした。

・最初は『ジュラシック・パーク』のようにディスプレイ・グラフィックスのデザイン担当であった役割が、撮影の3カ月前になり、急にビジュアル・エフェクトのスーパーバイザーも引き受けることになってしまいました。しかも撮影中には脚本家の代わりに脚本まで担当することもありました。ある時はモニター上で*ブルー・スクリーンの設定をし、ある時は急いで俳優のところへ行ってワープロで脚本を書く…といったクレイジーな状況で、そのうち「スタッフの食事まで私が作らされるのではないか!」とさえ考えたほどです。

<註:*ブルー・スクリーンとは、物を撮影するときに後ろに置く大きなブルーの背景。これを用いて撮影された画像は、プリントの過程でブルーの背景から切り取られ、別の背景にオプチカル(光学処理)またはデジタル合成される。>

・ペンタゴンやロシア軍の戦略室、航空機のインテリアなどを再現したり、アニメーションを現場で制作するために、SGI(シリコングラフィックス社)から65台のマシン(Indigo2)と大型モニターを借りて「東欧に持ち込む」という途轍もない課題を抱えました。マシン自体がとても高価で(1台が現地1人の所得の約2倍)、皆は「マシンを持ち込むのは簡単だが、無事持って帰るのは極めて難しいだろう」と言うのです。そこで、私が責任を負いSGIと300万ドルの契約を結びました。というのも、ドリームワークス社では保険をかけてくれなかったからです。なので、初めてスロバキアに行ったときは、誰かがマシンをごっそり盗んでいくのではないかと気が気でなく心配で、私は毎日マシンと一緒に寝るような生活を送っていました。(笑)

■バックス氏のCG制作における「90%ルール」の定義

CGでは、「どこで制作を終わればよいか」という判断がなかなか決められないものです。そこで私は、ジェームズ・キャメロン監督から学んだ「90%ルール」に従っています。すなわち、90%ほど完璧であると判断した場合には、残りの10%を完璧にするよう心がけています。そうしないと、90%の完成度をどこまでも追求してしまい「いつまでたっても同じ作業を繰り返す」ということがあるからです。

■野生ゴリラ保護財団のためのオリジナル・ドキュメンタリー

ダイアン・フォッシー野生ゴリラ保護財団のため、ドキュメンタリーの制作を趣味で手がけています。SONY・デジタルハンディーカム(VX1000)を使用し、IEEE1394のバスであるファイアワイヤーを使って、ビデオカメラから直接マッキントッシュのボードに接続しハードディスクに録画するという方法をとっています。この素晴らしい点は100%デジタルのビデオですから、編集や効果を加えても画質の劣化がなく、一人でも制作できるので大変気に入っています。内容は『2001年宇宙の旅』の原作者アーサー・C・クラークをはじめ、何人かの科学者からの「世界の生態系にとってゴリラの存在がいかに大切であるか」という意見を10分間にまとめてあります。

また、Canonのプログレッシブ・スキャンの新しい操作技術によって、デジタルカメラで撮影を行い、それを後でフィルムに写すということも出来るようになりました。今後の超低予算の映画製作というものは、16mmのフィルムではなくデジタルビデオで制作されると思います。

野生ゴリラ保護財団のサイトでは、中央アフリカに設置したデジタルカメラの画像が衛星を経由して送られていますので、実写をリアルタイムでご覧いただけます。
なお、今後はQuickTimeバージョンが登場する予定です。

■関連リンク

主催:ニッポン放送 F.I.R.E.事務局

後援:コンパック株式会社

協賛:株式会社アクシス